【コラム】スポーツ選手のストレスとケガ

第21回 「膜」の影響力

吉備国際大学社会科学部学部長・教授
公益財団法人日本健康スポーツ連盟認定プロフェショナルトレーナー
一般社団法人日本メディセル療法協会理事・学術委員長

竹内 研

身体を動かす場合に、筋肉や骨の働きに意識が行くのは、これは当然。
特に、筋肉は骨格を動かす訳ですから、身体運動の主役と位置付けられてきました。筋トレで筋肉の出力を上げて、パフォーマンスを高める。

ところが、その筋肉の状態や働きに強い影響を与える物があるということが、今や専門家はおろか一般の方々も知るところとなってきています。

その代表例は、筋膜。
筋肉を包み覆っている膜。

その膜の状態が、筋肉の状態や働きの決め手となっている。
膜の状態を改善すると、筋肉の状態や働きが改善する。
こうした考え方で、所謂筋膜リリースの認知度が広がっています。

もちろん、これはこれで大変結構なことです。

しかして膜に関わる実態はと言うと、人間のあらゆる組織には膜がある、膜で覆われている。
筋肉に限らず、骨も内臓も神経も。
膜というのは、実に薄くて、その中は水分を貯留している。膜が各組織を保護し、栄養を与えている。
一般の方々も、身体にある何とか膜とかいうのは、いくつかはご存知だと思います。
もっとも筋肉についても、筋肉全体が膜で覆われているばかりか、筋肉を構成している一本一本の繊維も、それぞれ膜で覆われている。さらに、それら何本かの繊維を束ねる様に膜が覆っている。
こんな風に、膜組織は重層的にできているのです。

とすると、人体の膜組織というものは、実に膨大だと思えてくるのではないでしょうか。
だとしたら、膜というものは私達人間の、身体の動きはもとより、さらには健康にも影響力を持っているのではないのかなと思えてきませんか?

運動のパフォーマンスを良くしようとするなら、健康状態を改善しようとするなら、膜にも注目しなくては!
筋膜リリースはその一端だったんですね。

ちなみに、確かに今現在、膜に対する注目が高まってきているんです。
でもこれは新しいことではなかったんですね。むしろ、極めて伝統的な考え方と言えるんです。

以前にも書きましたが、今からおおよそ1500年前にインドから中国は少林寺に渡来した僧侶の達磨は、「易筋経」で膜と筋(スジ)こそが、人間の身体と精神の在り様を決めると教えたのでした。
そこを起点として、心身の練磨の方法が伝承され、武術や今で言うところの気功の体系が編まれていきました。
本来の伝統的な武術では、膜や筋(スジ)を練磨し強固に開発することで、強健な身体と揺るぎない精神と強大な戦いの力を養ったのです。

ちなみに、筋(スジ)とは靭帯や腱ととらえれば概ねOK。

膜は、血管同様、身体のあらゆる膜同士が繋がっています。ですから、ある部分の膜に働きかけたら、意外なところに効果が出るというようなこともある訳です。
そして当然、皮膚も膜で覆われています。
皮膚への施術などは、膜組織を通じて、心身に影響を与えているのではないかと、必然的に思えてきますね。

2021-10-05