【コラム】スポーツ選手のストレスとケガ

第18回 活性酸素とミトコンドリアの劣化との関係

吉備国際大学社会科学部学部長・教授
公益財団法人日本健康スポーツ連盟認定プロフェショナルトレーナー
一般社団法人日本メディセル療法協会理事・学術委員長

竹内 研

『奇跡のランニング』という書物をご存知でしょうか。
1977年にジム・フィックスによって世に出ました。世界的にベストセラーとなって、世界的なジョギングブームに大きな貢献を果たした書籍です。
ジム・フィックスはこの本の著者として有名になったばかりではなくて、そのショッキングな最期によって、さらに有名になってしまったのです。

『ジョギングのカリスマ』となった彼が、講演のためにある街に到着後、ホテルにチェックインしてから、日課のジョギングに出かけたのですが、いつになってもホテルに戻ってこない。捜索の結果、道端に倒れて、息絶えていた。死因は心不全。解剖してみたら、動脈硬化があちこちに。
これは世界に衝撃が走った!

では何故?
その後進んだ研究によると、根本的な原因は活性酸素。
おそらくは、活性酸素がフィックスの血管にダメージを与えていたのであろうと。

少し時代を経て、「スポ―ツと活性酸素」について、日本でも学会をあげて、議論が盛んに行われました。果たして、スポーツ・運動は健康に良いのかと。
それまで、ケネス・H・クーパー博士による『エアロビクス』という著書が、こちらも世界的なベストセラーとなったりしたのを契機に、エアロビクスつまり有酸素運動の健康効果が世界の先進国中で大ブームに。その潮流の中での、『奇跡のランニング』だったのですが。

有酸素運動こそが健康に良いということですが、そこに起こったのが、活性酸素の発生によるダメージ。
今さら言うまでもないですが、私達は常に酸素を摂取している。運動すると摂取する酸素の量は増える。有酸素運動は、多くの酸素を摂取する。
私達が摂取している酸素のおおよそ3%くらいは、活性酸素になります。40歳頃になると、5%とかが活性酸素になる。ということは、有酸素運動をして多くの酸素を摂取すると、その分活性酸素も多く出る。年齢が上がるとますます。

活性酸素は、身体の細胞という細胞にダメージを与えることは、これはもう常識・・・なんだけど、一般の人達は活性酸素に注意を払っている人は、あまり聞かないですね。話題に上らない。
活性酸素によって細胞が壊れたり、働きが衰えたり、劣化したり、異常化したり・・・・・・・。
これが病気という病気や、障害の発生の多くに絡んでいる。
世界の研究分野の、常識となっています。

なのに、健康でいよう、健康になろうとする時に、活性酸素に目が行くことは、極めて少ない。本来、優先順位一位と言っても良いだろうに。

「運動しているから、体力があって、健康だ。」と単純に思うのは危険。
「運動しているから、活性酸素をたくさん出しているのでは?」と思っておく必要性があります。

事実、アスリートはリタイアしてから、年齢と共に、健康状態が悪くなる人は、実に多くいますね。
そして、活性酸素が多く出るようになるのは何故かというと、ミトコンドリアの劣化!
ミトコンドリアが劣化したら、活性酸素がたくさん出るようになって、どんどん細胞が痛んで、当然健康の問題が続々。
ミトコンドリアは、大人になったら、色々な原因で、着々と劣化していってる。
こんな事実を知ったのは、ここ数年のこと。
もう、目からウロコが落ちまくり!

ちなみに、今現在のところ、ミトコンドリアの劣化を防いだり、劣化したミトコンドリアを修復できる運動はこれだ、という研究結果はありません。

2021-09-16