【コラム】スポーツ選手のストレスとケガ
第15回 身体運動と脳科学
吉備国際大学社会科学部学部長・教授
公益財団法人日本健康スポーツ連盟認定プロフェショナルトレーナー
一般社団法人日本メディセル療法協会理事・学術委員長
竹内 研
少し前から「ゾーン」とか「フロー状態」とか耳にしますね。
本人が無意識的に素晴らしい動きやパフォーマンスを行っている状態。
アスリートの方々なら、大なり小なり経験があるのではないでしょうか。
私の親しいエアロビックの世界チャンピオンは「演技中に、アリーナの天井近くの上の方から、演技している自分の姿を観ていた!」という体験が2度有ったと言ってます。
確か、かのアントニオ猪木も同じようなお話をされていましたね。
私も、私なりに、無意識的に、または実に楽な感覚と共に、最高のパフォーマンスをしたという経験はあります。
私は、中国で最高レベルと称される武術の達人が創始して、日本の武道・格闘技界でも畏敬の念をもって注視されている武術をやったところ、相手が本気で突いたり蹴ったりしてきて、自分ではどうこうしようなどと何も思っていない状態で、無意識に身体が勝手に反応して、相手の攻撃を防いだり、相手に攻撃を加えたりするようになった体験があります。
サッカーをやっていた時の事。
なんとか上手くなりたい。個人技の優れた選手になりたい。そうした一心から、当時ほとんど情報の無い中、数少ないサッカー雑誌に紹介されていた練習方法をヒントに、自分なりに工夫した方法で一人練習をしたら、ボールをキープしている時に、ディフェンダーが取りに来ても、無意識に身体が反応して、相手をかわす様になるという体験も。ボールがそれこそ勝手に、足に吸い付く。
ウ~ン、身体運動の世界には、何か通常とは違う世界があるのでは。そんな風に感じ始めたものです。
身体運動の最高中枢は、言うまでもなく脳ですね。脳がどんな状態で、どう働くかによって、その時点での運動が現れ出ます。
なかなか、脳の科学的研究が進まず、筋肉やせいぜい末梢神経の研究の方が先行した感のある、スポーツやトレーニングの分野でした。
世界的な脳科学研究の進展によって、今ようやく、スポーツやトレーニングの分野において、脳に対する注目が芽生え始めてきていると言ってよいのでは。
しかし、実は、武術やヨガなどといった、何千年もの歴史を持つ身体運動分化の本質を理解するには、脳やそしてこれまた進展著しい皮膚の科学が中心だと思います。
それに、トップアスリートの常人のレベルを遥かに超えたパフォーマンスを解読するにも同じことが言えるでしょう。