【コラム】スポーツ選手のストレスとケガ
第14回 「筋トレ」「ゆるみ」「脱力感」・・・
吉備国際大学社会科学部学部長・教授
公益財団法人日本健康スポーツ連盟認定プロフェショナルトレーナー
一般社団法人日本メディセル療法協会理事・学術委員長
竹内 研
筋トレをガンガンやって、久しぶりに会った他人が見ると「どうされたんですか?」と言われるぐらい、身体がマッチョになったという経験もしました。
「ホーッ、身体ってこんなに短期間に変わるんだ!」ということに直面した、初めての体験でしたね。
これはこれで、自分的にはそれまでになかった、貴重な経験。
同じ様な経験を、筋トレで味わった方々も、あちこちにおられると思います。
さらに、私の場合は、ありがたいことに、筋トレの理論家として、セミナー講師や雑誌連載をさせていただきました。
周囲の誰もが、「竹内さんは筋トレの専門家」として認知していただいていたのですが・・・。
付いて回るのは、自分の運動センスの乏しさ。
「誰もが真似できない動きができる人」への憧れ。
それも、ただ器用なだけではない、クウォリティの高い、言わば達人的な動き。
色んなスポーツの選手を観ても、目が行くのは、そうした動きを体現する選手。
しばらくすると、そんな素晴らしい動きをする選手に共通する「何か」に気づき始めました。
それは、「脱力感」。
タラーッと力が抜けて、ゆるんでいる感じ。
武術の分野に目を転じても、ググッと引き付けられる動きをする武術家は、やはり脱力感、ゆるみが感じられる。
当然ながら、センスの乏しい私はというと、何かと力むタイプ。
そして、少年時代に思いを馳せてみれば、サッカーでセンスの良い動きをしていた、あの頃羨ましい思いと共に見ていた同級生も、私よりもずっとずっと力が抜けていた。
閑話休題、筋トレの分野で代表的なヒーローであった、かのアーノルド・シュワルツェネッガーも、よく見ると隆々たる筋肉を持ちながら、ゆるんでいる。
どうやら、この辺りに、運動センスの本質がありそうだなと、気づき始めたのは、三十路に差し掛かる頃。
みなさん、コーディネーショントレーニングとか、アジリティトレーニングという言葉は、お耳に馴染んでおられますか。
今では、かなりポピュラーになったと思います。
私も、エアロビックの選手の指導にこれを導入してみたら、レベルアップする選手がどんどん出てきました。練習時間の半分は、コーディネーショントレーニング、そういう段階もありましたね。不器用な選手が、とても良い動きをするようになる。
その結果、それこそ三十路になって、それまで倒立すらやったことがなかった女子選手が、全日本選手権に初出場したりとか。所謂「神経系」に目が拓いた訳です。
私も、選手に指導する必要性から、コーディネーショントレーニングをやっていたら、「動きが良くなってきたかも。」と感じた次第。
サッカー少年時代に出会っていたら、その後の人生変わったかもと思ったのは、実はほんの少し。
既に、私の志向の先は、もっともっとハイ・クウォリティな動きのメカニズムと、その習得方法。
何がどうであれ、「ゆるむ」ことが絶対必要条件と解った。しかし、本当にゆるむことの困難さと奥深さは、この時点で心のどこかで感じていました。
そして、背骨の機能と、深く深く関係していることは、この時点では、まだ見えていませんでしたね。
そして、脳と皮膚。
こうしたファクターのメカニズムや連関が自分として解ってきたのは、還暦に近づいてきた頃から。
正しく、人生、光陰矢の如し。